当初、『ぎんのすず』を発行していたのは、広島印刷(株)内にある出版事業部でした。やがて出版事業が大活況を呈するようになると、広島印刷は出
版事業部を独立させ、広島図書(株)を設立します。その後、広島図書(株)は1949(昭和24)年、「本家」である広島印刷を吸収合併し、日本の児童雑
誌出版界において一時代を築きます。この年、『ぎんのすず』シリーズの総発行部数は100万部を突破。執筆者には、与田凖一(児童文学者)、高木東六(作
曲家)、火野葦平(作家)、海野十三(作家)をはじめ、蒼々たる顔ぶれが名を連ねていました。「サザエさん」の作者、故・長谷川町子さんのマンガも掲載さ
れたそうです。
しかし、その隆盛は長くは続きませんでした。首都圏の出版業界が復興するにつれ、『ぎんのすず』の販売は下火となり、広島図書(株)も倒産します。
「『ぎんのすず』は質の高い、いい雑誌だった。しかし東京の大手出版社が付録のいっぱいついた児童雑誌で攻勢をかけてくるのに押されて下火になってしまっ
た。残念なことだ」。これは以前、広島の紙卸業界の先達にインタビューした時にうかがった言葉です。100万部の雑誌を発行する出版社の存在が、広島市内
の紙業界・印刷業界にとっていかに大きなものであったかは、容易に推察できます。また『ぎんのすず』の成功が広島の経営者たちに勇気と希望を与えたであろ
うことも、想像に難くありません。
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