インターネットは強力な情報検索ツールですが、万能ではありません。検索エンジンで「森下南窓」を検索しても、関連情報を得ることはできませんでした。
そこで広島市中央図書館に行き、広島の書家・画家の雅号に関する書籍を検索したところ、森下南窓の書が広島県立美術館に収蔵されていることがわかりました。また、「新教育の実践(大下学園祇園高等学校著・昭和24年12月1日発行」という本に書道部顧問として「森下久吉」の名が記されており、南窓の本名が久吉であることも、ほぼ特定できました。
しかし問題は未解決のままです。西﨑紙販売にある「伸展」の書の作者が、本当に森下南窓である確証は全く得られていないからです。Fさんは非常に高潔な人格者であり、篤実の方です。しかしだからといってFさんが「南窓ではないか」と言われたからといって、それを鵜呑みにしたのでは、調査する意味がありません。
真偽を確かめる方法は一つ。広島県立美術館に収蔵されている森下南窓の書を実際に見て、署名、落款を「伸展」と比較するしかありません。筆者はさっそく、図書館から広島県立美術館へと向いました。しかし館内の常設展に書は一幅も並んでいませんでした。当たり前の話ですが、常設展示スペースでは、ダリやピカソの絵画といった美術館の「顔」とも言うべき展示を除き、膨大な所蔵品の中から、定期的に企画に沿って展示品を入れ替えるのです。
何とか確認するすべはないものかと、筆者は一縷の望みを抱いて、美術館事務所のドアをノックしました。
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